代表的疾患と治療法

前立腺がん

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前立腺がん

前立腺がんは、膀胱の下にある前立腺という臓器にできる男性に特有のがんです。近年は高齢化や検診の普及に伴い増加しており、日本の男性に最も多く発生しているがんとなっています。

国立がん研究センターの統計によると、2020年の新規診断数は87,756例で、男性がんの第1位。一方で、**5年生存率は99.1%**と非常に高く、早期発見と適切な対応で治癒が期待できるがんです。

主な症状

前立腺がんは、初期にはほとんど自覚症状がないことが特徴です。進行するにつれて、以下のような症状が現れることがあります。

  • ・排尿しづらい・尿の勢いが弱い
  • ・トイレの回数が多く、特に夜間に頻繁に起きる
  • ・血尿、血精液
  • ・骨への転移による腰痛や全身のだるさ(進行例)

自覚症状が出にくいため、症状がなくてもPSA検査(血液検査)を受けることが重要です。年齢によって基準値は異なりますが、おおむねPSAが4.0 ng/mL以上の場合、より詳しい検査を行います。

診断と検査

前立腺がんの診断には、次のような検査が行われます。

PSA検査
血液中のPSA(前立腺特異抗原)を測定し、前立腺がんのリスクを評価します。
直腸診
肛門から前立腺を触って診察します。
前立腺MRI
画像でがんの範囲や悪性度を評価します。
前立腺生検
組織を採取して顕微鏡で診断します。
骨シンチグラフィ/PSMA-PET
がんの転移がないか確認します。

前立腺がんの精密検査体制について

当院では、放射線診断科との高度な連携により、高精度な前立腺がん診断を実現しています。特に、MRI画像と超音波画像を組み合わせて行うMRI融合下生検(Fusion Biopsy)の実施件数は国内でも有数であり、病変の正確な検出と診断精度の向上に貢献しています。

診断が確定した後は、グリソンスコア(腫瘍の悪性度)や病期(ステージ)などの情報をもとに、患者さん一人ひとりに最適な治療方針をご提案いたします。

病期とリスク分類

前立腺がんは、がんの広がりや悪性度に応じて分類されます。

  • ・限局がん:前立腺の中にとどまっている
  • ・進行がん:前立腺を超えて広がっている
  • ・転移がん:リンパ節や骨など遠くに広がっている

また、限局がんはさらにリスクごとに分類され、治療方針が異なります。

リスク分類と目安となる特徴

超低・低リスク
PSAが低い/グリソン・スコアが低い/腫瘍が小さい など
中間リスク
PSAやグリソン・スコアがやや高い
高・超高リスク
PSAが高値/グリソン・スコアが高い/浸潤傾向がある など

主な治療方法

前立腺がんの治療は、がんの進行度(病期)や悪性度(グリソン・スコア)、そして患者さんの年齢・基礎疾患・希望などを総合的に考慮して決定されます。

がんが前立腺の中にとどまっているか(限局性)、すでに転移しているかによって、選択される治療法は大きく異なります。

限局性前立腺がんの治療

がんが前立腺内にとどまっている状態では、根治(完治)を目指した治療が可能です。以下は、日本泌尿器科学会・欧州泌尿器科学会のガイドラインに基づく代表的な治療法です。

能動的監視療法(Active Surveillance)

主に超低リスク・低リスクの患者さんが対象となります。

  • ・PSA検査、MRI、前立腺生検を定期的に行いながら経過を観察する方法です。
  • ・腫瘍の進行が認められた場合は、適切なタイミングで根治療法(手術・放射線など)へ移行します。

臓器を温存できる選択肢のひとつであり、特に高齢の方や治療の副作用を避けたい方に適しています。

前立腺全摘除術(Radical Prostatectomy)

前立腺を周囲の組織・精嚢とともに切除する標準的な手術治療です。

現在では、多くの施設でロボット支援下手術(ダヴィンチ手術)が行われており、出血量が少ない、神経温存が可能(勃起・尿禁制機能の温存に寄与)などの利点があります。

症例によっては骨盤リンパ節郭清も同時に行います。

放射線治療(Radiation Therapy)

がん細胞を外部からの放射線または体内からの照射で破壊する方法です。前立腺がんでは以下の2つの方法があります。

強度変調放射線治療(IMRT)
放射線をがんの形に合わせて照射し、正常組織への影響を最小限に抑える高度な技術。
小線源療法(密封小線源治療)
前立腺内に小さな放射線源を埋め込むことで、内部から継続的に照射します。低リスク〜中間リスク例で選択。

ホルモン療法(アンドロゲン除去療法 / ADT)

前立腺がんは男性ホルモン(アンドロゲン)によって増殖する性質があるため、精巣からのホルモン分泌を抑える薬や、ホルモンの作用を遮断する薬を用いて、がんの進行を抑えます。

  • ・単独で行うこともあれば、手術や放射線治療と組み合わせることもあります。
  • ・高リスク・局所進行がんでは、長期ホルモン療法を併用することで治療効果が高まることが知られています。

臓器を温存できる選択肢のひとつであり、特に高齢の方や治療の副作用を避けたい方に適しています。

進行性前立腺がんの治療

がんが骨やリンパ節など遠隔転移している場合には、病勢を抑え、症状を軽減することを目的とした治療を行います。

ホルモン療法(ADT)
転移性前立腺がんの第一選択
新規ホルモン薬
新規ホルモン療法薬を追加使用
化学療法
ドセタキセル、カバジタキセルなどの抗がん剤治療
骨転移への治療
骨転移による痛みや骨折を防ぐため、ゾレドロン酸やランマーク®を併用することも

複数の薬剤を組み合わせた集学的治療が重要となります。

川崎医科大学泌尿器科学教室における対応

当教室では、以下のような個別化医療・標準治療の実践を大切にしています。

  • ・臓器温存や機能温存を希望される方への監視療法・放射線治療のご提案
  • ・ロボット支援手術による精度の高い前立腺全摘除術の提供
  • ・転移性症例への最新薬物治療の導入と副作用マネジメント
  • ・多職種連携による患者さんの生活の質(QOL)を重視した治療方針

治療後のフォローアップ

治療後も、定期的な経過観察が大切です。

  • ・PSA検査(再発の有無をチェック)
  • ・画像検査(必要に応じて)
  • ・副作用のケア(尿もれ、性機能障害、骨の健康など)

治療が終わった後も、医師とともに適切な管理を続けることで、生活の質(QOL)を維持することが可能です。

ご相談ください。前立腺がんは、早期発見と適切な治療により、良好な経過が期待できるがんです。

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