代表的疾患と治療法

膀胱がん

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膀胱がん

膀胱は腎臓で生成された尿を一時的にため、排出する役割を持つ臓器です。膀胱の内側は尿路上皮という特殊な粘膜で覆われており、この部分からがんが発生することが多くあります。

膀胱がんは中高年に多く見られるがんで、日本では年間およそ2万人以上が新たに診断されています。特に男性に多く発症し、患者さんの大半は50歳以上です。

初期症状としては無症候性の血尿が多く、進行すると排尿障害や骨盤痛などがみられます。早期に発見されれば高い治癒率が期待できる一方、再発率も高いため、診断後は継続的なフォローアップが必要です。

検査方法

膀胱がんの診断には、以下のような複数の検査が組み合わされて行われます。

・尿検査
血尿の有無を調べ、尿細胞診によって異型細胞(がん細胞)の有無を確認します。
・膀胱鏡検査
尿道から内視鏡を挿入し、膀胱内を直接観察して腫瘍の有無を確認。必要に応じて生検(組織採取)を行い、病理診断します。
・画像検査
(超音波、CT、MRI)
腫瘍の大きさ、位置、筋層への浸潤や他臓器への転移の有無を評価します。特にMRIは筋層浸潤の有無の判断に有用です。

膀胱がんの種類

膀胱がんは、その進行度、特に膀胱壁への浸潤の深さによって大きく2つのタイプに分類されます。

筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC:Non-Muscle Invasive Bladder Cancer)

膀胱の内側の粘膜層にとどまる比較的早期のがんで、多くはTURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)によって切除されます。術後には再発予防を目的として、抗がん剤やBCG(ウシ型弱毒結核菌)を用いた膀胱内注入療法が行われることが一般的です。また、再発の可能性が高いため、定期的な膀胱鏡検査による経過観察が非常に重要です。
特に一部の症例では、筋層までがんが進行して筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)へ移行するリスクがあるため、注意深いフォローアップが求められます。

筋層浸潤性膀胱がん(MIBC:Muscle Invasive Bladder Cancer)

膀胱の筋層にがんが達しており、進行度が高いとされるタイプです。血行性やリンパ行性に転移をきたしやすく、集学的な治療が必要です。根治を目指して膀胱全摘が選択されることが多い一方で、膀胱温存療法(TURBT+化学療法+放射線療法)も有効な選択肢となり得ます。

膀胱がんの主な治療方法(標準治療)

膀胱がんの治療には、がんの進行度や病理学的特徴、患者さんの全身状態などを踏まえて、多様な方法が選択されます。

表在性膀胱がんに対しては、まず経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)が第一選択となります。これは内視鏡を尿道から挿入し、腫瘍を切除するもので、切除された組織は病理診断にかけられ、がんの種類や深さが評価されます。再発率が高いため、術後にはBCGや抗がん剤による膀胱内注入療法が併用されることが一般的です。

筋層浸潤性の進行がんに対しては、根治療法として膀胱全摘除術が広く行われています。膀胱を全て摘出し、尿路変向(人工膀胱や回腸導管など)を作成します。排尿機能の喪失や生活の質(QOL)への影響が大きいため、患者さんとの十分な話し合いのうえで治療方針を決定する必要があります。

また、化学療法としては、シスプラチンを中心とした白金製剤の抗がん剤が使用されており、現在の標準療法としてゲムシタビン+シスプラチン(GC療法)が広く採用されています。これらは主に術前(ネオアジュバント)に投与され、転移や再発の抑制を目的とします。

膀胱温存療法

膀胱温存療法とは

膀胱温存療法とは、膀胱の機能をできるだけ保ちながらがんを制御することを目的とした治療法です。
主に筋層浸潤性膀胱がん(MIBC)、再発性筋層非浸潤性膀胱がん(NMIBC)を対象とし、TURBT、化学療法、放射線療法などを組み合わせて行う集学的治療です。

膀胱温存療法の利点

  • ・膀胱機能の維持による患者さんの生活の質(QOL)向上
  • ・性機能や社会生活の保持
  • ・高齢者・合併症を有する方への選択肢

対象となる患者さん

膀胱温存療法は、すべての患者さんに適用できるわけではありませんが、患者さん一人ひとりの病状や生活背景に応じて、リスクとベネフィットを丁寧に共有しながら判断しています。特に、膀胱の機能が良好に保たれている方に対しては、積極的に温存療法の選択肢をご提案することが、川崎医科大学の方針です。

また、化学療法や放射線療法に伴う影響を適切に乗り越えるためには、全身の健康状態が安定していることも重要な要素となります。がんの広がりや組織型、治療に対する反応などの医学的情報に加え、患者さんの年齢や腎機能、日常生活の状況なども含めて、総合的に治療方針を検討していきます。

なお、がんの性質や進行度によっては、膀胱全摘除術がより安全かつ確実な選択肢となる場合もあります。その際も、患者さんとよく話し合い、ご納得いただいたうえで治療を進めてまいります。

当院では、患者さん一人ひとりに合わせた“個別化治療”を大切にしています。膀胱温存をご希望の方や治療に迷われている方も、まずはお気軽にご相談ください。

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治療の流れと方法

川崎医科大学附属病院では、泌尿器科を中心に、放射線治療科、放射線診断科、病理学教室に加え、排尿ケアチームの専任看護師や地域連携室との多職種連携により、膀胱温存療法の質を高めています。
治療計画の立案から実施、その後のフォローアップに至るまで、専門チームによる一貫した支援体制を整えています。

01

まず初めに、TURBT(経尿道的膀胱腫瘍切除術)を行い、膀胱内の目に見える腫瘍を可能な限り切除します。この段階で得られる病理組織により、腫瘍の悪性度や筋層浸潤の有無を診断します。腫瘍がどれだけ切除できたかは、今後の治療方針を決定するうえで非常に重要な情報となります。

02

次に、治療計画に基づき入院のうえ、化学放射線療法(CRT)を行います。これは抗がん剤の投与と放射線治療を同時に実施することで、相乗的な治療効果を狙うものです。治療前には多職種カンファレンスを行い、患者様の腎機能や合併症、全身状態などを十分に考慮して抗がん剤の種類や量を個別に調整し、安全性と有効性のバランスを重視した治療を行います。

03

当院では、放射線治療においてIMRT(強度変調放射線治療)を導入しており、膀胱全体に加え、骨盤リンパ節領域(全骨盤)までを高精度で照射可能な体制を整えています。これにより、正常な組織へのダメージを抑えつつ、がん細胞には十分な線量を届けることが可能となり、より高い治療効果を期待できます。

04

治療終了後は、膀胱鏡検査・尿細胞診・画像検査(CT、MRIなど)を組み合わせて、がんの治療効果を判定します。腫瘍が完全に消失している「完全奏効」の状態が確認された場合には、膀胱温存を継続します。一方で、腫瘍の残存や再発が確認された場合には、膀胱全摘除術を含めた次の治療方針について再評価を行います。

フォローアップと再発時の対応

  • ・定期的な膀胱鏡検査、尿細胞診、画像診断による慎重な経過観察
  • ・再発時は再TURBT、膀胱内注入療法、補助化学療法、サルベージ全摘など柔軟に対応

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